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仙台地方裁判所 昭和24年(行)6号 判決

原告 酒井勇

被告 宮城県農地委員会

一、主  文

被告が昭和二十三年十二月二十七日原告の訴願に対してなした裁決はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、その請求の原因として、訴外筆甫村農地委員会は、昭和二十三年十月二十三日宮城県伊具郡筆甫村字四十七番地の一、田一反一畝十八歩を訴外筆甫村所有の小作地であるとして、右農地について買收計画を定め、同日これを公告したので、原告は十一月一日異議の申立をしたが、同月九日却下の決定を受けた。そこで更に同月十九日被告に訴願したが、十二月二十七日訴願棄却の裁決を受け、右裁決書は同二十四年一月十一日送達された。

しかしながら、本件農地はもと訴外筆甫村の所有で、原告先代吉助が昭和五年頃から引続きこれを借り受けておつたが、同二十年九月十四日村有財産の処分について宮城県知事の許可を得た上、同月二十日これを買受けたものであつて、原告は同二十三年十一月二日先代吉助の死亡により、その遺産相続に基ずいてこれを承継し、同二十四年一月二十二日右吉助のためその旨の登記を経たものである。

以上の通りであつて、本件農地は原告の所有であつて、訴外筆甫村の所有に属しないから、これを右筆甫村の所有地であるとして、本件農地について訴外筆甫村農地委員会が定めた前記買收計画は違法であり、從つて右買收計画を維持して原告の訴願を棄却した被告の裁決もまた違法である。よつて、右裁決の取消を求めるため本訴請求に及んだ次第であると述べ、

被告の抗弁に対し、(一)前記のように村有財産の売買について宮城県知事の許可を受けている以上、農地調整法第四条に基ずいて更に同知事の許可を受ける必要がない。(二)本件買收計画樹立当時及び裁決当時、登記を経ていないけれども、現在は登記を経ているから訴外筆甫村農地委員会及び被告に対し、所有権の取得を主張できる筋合であると反駁した。(立証省略)

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、原告主張の請求原因事実は全部これを認めると答え、

抗弁として、(一)右売買は、農地調整法第四条による宮城県知事の許可を受けていないから、無效である。宮城県知事が昭和二十一年九月十四日右売買について与えた許可は、單に行政監督廳としての許可であつて、農地調整法第四条の許可ではない。

(二)仮に有效であるとしても、本件買收計画樹立当時及び裁決の当時、その旨の登記を受けていないから、その所有権の取得を第三者である訴外筆甫村農地委員会及び被告に対し主張できないと述べ、いずれにしても、本件農地を訴外筆甫村の所有であるとし、これについて定めた本件農地買收計画には何等違法の点がなく、從つてまた右買收計画を維持して原告の訴願を棄却した被告の裁決にも、違法の点がないから、その取消を求める原告の本訴請求は失当であると答えた。(立証省略)

三、理  由

訴外筆甫村農地委員会が、昭和二十三年十月二十三日本件農地を訴外筆甫村所有の小作地として、これについて農地買收計画を定め同日これを公告したこと、原告がこれに対し同年十一月一日には異議の申立を、同月十九日には被告に対し訴願したが、右はいずれも同月九日には却下の決定を、十二月二十七日には訴願棄却の裁決を受け、その裁決書は同二十四年一月十一日送達されたこと、本件農地がもと訴外筆甫村の所有で、原告の先代吉助は昭和五年頃から引続きこれを借り受けていたが、同二十年九月三十日(原告は二十日と主張し被告は之を認めたけれども成立に爭がない甲第七号証に照し三十日の誤りであることがわかる)これを買受けたこと、原告が同二十三年十一月二日右吉助の死亡により、その遺産相続に基ずいて本件農地の所有権を承継したこと及び昭和二十四年一月二十二日になつて漸く吉助のために所有権移転登記がなされたことは当事者間に爭がない。

被告は、右売買は宮城県知事の許可を受けていないから、無效であると主張するけれども、右売買は昭和二十年法律第六十四号による農地調整法の改正規定施行以前になされ、賃借人たる原告先代吉助において買受け後に認定するようにその頃その引渡を完了したものであるから、右改正規定及びその後の農地調整法の改正規定の適用を受けないし、又臨時農地等管理令第七条の二の規定違反は右売買を無效ならしめるものではない。從つて、被告の右主張は理由がない。

次に本件買收計画樹立当時及び裁決当時いずれも本件農地の売買について、その旨の登記を経ていないことは当事者間に爭がなく被告は、登記を経ていない以上、第三者である訴外筆甫村農地委員会及び被告に対し所有権の取得を対抗できないと主張するけれども、一、成立に爭がない甲第二乃至第五号証、証人目黒勘四郎の証言、原告本人訊問の結果によれば、本件農地は元原告先代酒井吉助の所有であつたが、昭和十三年頃筆甫村で村民の負債整理をした際吉助は同村に対し、右土地を將來財産状態が回復したときには何時でも買戻すことができるという約款を附し、金七百五十円で売渡しその登記を経たが、右のような事情でなされた売買であつたから、村では右農地をそのまゝ吉助に耕作させていたこと、昭和二十年三月頃吉助は村に対しその買戻の申出をしたので、村では同月二十六日村会を開き、満場一致で売戻すことを可決したこと、売戻代金は当時農地の売買価格が統制されていて、金七百五十円では当然之を超過するので、超過部分は吉助から進んで別途に村に寄附し、これによつて村の損失を償うことゝし、金三百三十六円四十銭の統制価格と定め、同年七月二十六日村の基本財産を処分することについて県知事の認可を申請し、おそくとも同年九月十四日迄にはその認可を受け売買契約を締結し、その代金の授受を終り、農地の引渡をなし、村の財産台帳から右農地を抹消したこと、登記も直ちになす筈であつたが、終戰直後の混乱の爲に延引し、そのうちに売買当時の村長が追放され、前記登記がなされるまでそのまゝとなつて了つたことを認めることができる。

二、成立に爭がない甲第二号証、第十二号証及び証人目黒勘四郎の証言によれば、本件農地の買收計画について決議をした筆甫村農地委員会の委員中には、先に右農地を吉助に売戻すことを決議した村会で、村会議員として出席し、その決議に加わつた訴外渡辺儀助がいた(成立に爭がない甲第十二号証によれば同人は原告の本件買收計画の異議を審理した昭和二十三年十一月九日の筆甫村農地委員会に委員として出席し委員大和田梅三郎の本件は内容相当複雜で愼重調査の必要があるから次回迄留保したいという動議に賛成している)ことを認めることができる。

三、成立に爭がない甲第七号証及び原告本人訊問の結果によれば、筆甫村農地委員会では、昭和二十三年十月二十三日附同委員会長の書面を以て、原告宛本件農地を村有地として買收する通知をなしながら、村に対しては終始何等の通知もしておらないことが明かである。

以上の通りであるからこれ等の事実を綜合して判断すると、筆甫村農地委員会は本件農地を買收するに当り、右農地は元原告の先代吉助の所有であつたものが村に讓渡され、後更に吉助が之を買戻し次で原告の所有となるに至つた前記経過を熟知し、買收計画を定めるについても実体上原告がその所有者であることを認容していたと認めるより外はない。成立に爭がない甲第十二号証によれば、原告の本件買收計画についての異議を審議した昭和二十三年十一月九日の筆甫村農地委員会において、議長宗片員衞は本件農地は登記未了であるから所有権は村にある、村は売却の際買受人に対し寄附を強要した事実がある、尚当初吉助から買受の時にも又昭和二十年三月十六日同人に売却の時の村会議事録にも買戻を条件とする記載がないのに、同年七月二十六日附宮城県知事宛許可申請書には買戻条件に依り売却するものである、と記載されていることは事実と相違した申請であるから、売買も、許可申請も共に正当のものと認められないといつて、売却関係について売却当時の村長から事情を聽取して欲しいという原告の申出を却け、この点について何等調査をしようとしなかつたことがわかるけれども、この事実の存在は、前記認定の妨げとならない、他には右認定を覆すに足る証拠がない。

而して、登記は権利の得喪変更の要件ではなくて、その対抗要件にすぎず、第三者は予めそれを知る場合には登記名義の如何に拘らず、進んで実体上の権利者を権利者と認めることは何等支障がなく却つて眞実に適し正義を保持することになるわけである。而も自作農創設特別措置法に基いてなす農地の買收は、市町村農地委員会の定める買收対価及び買收の時期において、国家の公権力に基ずき農地の所有者の意思如何に拘らず強制的に売買の效果を発生せしめるものであるから、全体の奉仕者たることにおいて他の公務員と異ることのない農地委員は買收計画を定めるに当つては、それが農地買收の基礎をなすものであることに留意し、誠実公平に、眞実を尊重し、正義に則つて之をしなければならない。從つて当該農地委員会が自作農創設特別措置法に基ずき農地の買收をなすに当つて、実体上の権利者が何人であるかを熟知しているような場合には、たとえそのもののための登記手続が未了であるときにも、その権利者を権利者として認めて買收計画を定めることが寧ろその職責に忠実であると言うべきである。本件において、筆甫村農地委員会は前に認定した通り本件農地が筆甫村から原告に讓渡されたことを熟知しており、その買收計画を定めた後も、同村に対して何等の通知をなさず、却て原告に対しその通知をなしたほどでありながら、その買收計画を定めるに当つては登記名義に藉口し、故ら同村所有の農地として之を定めたのであるから、このような処置は眞実を無視した甚しく不当の処置であつてこれを農地委員会の前記職責から考えると到底許されないといわなければならない。從つて被告のこの点に関する主張も採用することができない。

以上の通りであるから、本件農地を殊更訴外筆甫村の所有であるとし、これについて訴外筆甫村農地委員会が買收計画を定めたのは違法であり、從つてこれを維持して原告の訴願を棄却した被告の裁決もまた違法であり、その取消を求める原告の本訴請求には理由がある。よつてこれを認容し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する次第である。

(裁判官 松尾巖 伊藤正彦 片桐英才)

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